第4章 自律神経失調症・うつ病の対策 ストレス別
回復してきたら(後期の対策)

職場復帰へのリハビリ

 仮にここでは、外出もできないぐらい症状が悪いとしましょう。
まず、療養中は仕事のことなど考えず、ゆっくりと休むことです。

 

 先ほどお伝えしたように、自律神経は想像と現実の区別がつきません。
仕事のことを想像するだけで、あなたの体の中は出勤しているのと同じ状態になってしまいます。
仕事のことではなく、何か楽しいことやうれしいことを考えていてください。
リラックスできることでもかまいません。
体が動かせるようなら、何か作業をすると嫌なことを考えなくて済みます(パソコン作業などはやめておいたほうがいいでしょう)。

 

 また、うつ病の場合は朝がきついと思いますので、無理に早起きする必要もありません。
外出できないぐらいの方は、まずは世間の生活リズムではなく、自分の生活リズムで生活してください。

 

 きっと寝床から起きられない人もいるかと思います。
起きられない方は起きなくても結構です。
ゆっくりと休み、エネルギーが補充されるまで待ちましょう。

 

 すると午後あたりから、少しずつ体が元気になってくる人もいるかと思います。
そのような方は自分のできることだけを少しずつやりましょう。
掃除や洗濯をしなければならない人もいるかと思います。
病院へ行かなければならない人もいるかと思います。
焦らずゆっくりと「やらなければ……」「行かなければ……」という義務感を負うことなく、やれる範囲だけやればいいのだと思い、少しずつ行動するようにしてください。

 

 いくらか動けるようになったら、最低限のことだけを行い、それでも少し体力があるようでしたら、窓を開け、外の空気や光を部屋の中に入れてみてください。

 

 先ほどお伝えしましたが、太陽の光はガラス越しよりも直接入ってくるほうが効果的です(太陽光に直接あたる必要はありません)。
風などが入ってくれば、皮膚を刺激することになります。
風や太陽の光の刺激は脳に伝わり、体を動かす準備をさせようとします。

 

 このように、いつまでも何もしないのではなく、体が回復してきたら徐々に刺激を増やすようにしていきます。
最初の頃は、太陽光や風だけでも十分な刺激になりますので、体力が回復してきたら試してみてください。
もし疲れを感じたらすぐにやめてまた休むようにしましょう。

 

 このように刺激と休養を繰り返すことで体は強くなっていきます。
刺激だけでは体は疲れてしまいますし、休養だけでは体は強くなれません。
適度の刺激と適度な休養を繰り返すことが大事です。
このように、体を刺激に少しずつ慣らしていきます。

 

 家の中でなら大方のことができるようになれば、今度は外出する準備です。
ここでいきなり外出することはしないで、まずは外出する服装に着替えるだけにします。
どうせだからちょっとオシャレな服装に着替えてみてください。
女性ならお化粧もしてみましょう。

 

 できればここで急がないことをおすすめします。
1回目は外出の準備とお化粧ができたら、外出している想像だけにしてください。
まずは近所を想像で散歩してみてください。
自律神経は想像と現実の区別がつきませんので、想像だけでも十分な刺激になります。
2分ぐらいの散歩コースを考えて、想像で散歩してみてください。

 

 どこに何があるのか、道の広さはどれくらいか、人通りはどれくらいか、お気に入りのお店の前はどうなっているか、などいろいろなことを想像して散歩コースを回ってみてください。

 

 最初に想像で散歩するのは刺激が少ないからです。
いきなりリアルに散歩をすると、音がうるさく感じるかもしれませんし、嫌いな人と出会うかもしれません。
太陽の光が強いかもしれませんし、風を思ったより強く感じるかもしれません。

 

 これらは全部、刺激としてあなたの脳に入ります。
いきなり多くのリアルな刺激が脳に入ると、過剰なストレスとなる可能性があります。
ですから刺激の量を自分で調節できる想像から行うようにします。

 

 もちろん、それができるようになったら次は本番です。
軽くリアルな散歩をして、いろいろな刺激を受けてみてください。
最初は5分でもいいですし、1ブロックでもいいです。
自分が行ける範囲だけで結構ですので、ゆっくりと刺激を感じながら歩いてみてください。

 

 そんなに症状が悪くない方は、そんなちょっとで効果があるのだろうかと思う方もいらっしゃるでしょうが、そのような方は、散歩の時間をもっと長くしてもかまいません。
このあたりは個人差がものすごくありますので、自分の体の感覚を信じて調節してみてください。

 

 このように、リハビリは刺激を少しずつ増やすようにしてください。
1日合計で3~4時間を散歩や買い物などで外出して過ごせれば、職場復帰は近いです。

 

 次は家の中で自分の仕事に似ている作業をやってみてください。
仕事でパソコンを使われる方は、インターネットやゲームからでもいいので始めてみてください。
もちろん、いきなり最初から何時間もやらないようにしてください。
最初は5分ぐらいから徐々に時間を増やしていくようにしましょう。

 

 この生活が無理なくできるようになったらいよいよ職場復帰が目の前です。
ここでも焦らないことが重要です。
まずは日中に仕事場近くまで行くだけにしてください。
近くに喫茶店でもあれば、そこに入り少し仕事のことを考えてもいいでしょう。

 

 もし、上司や同僚などと会えるならば、会って近況などを聞くこともいいでしょう。
ここまでして、症状が悪化しなければ、会社に挨拶しに行くつもりで会社に行ってみてください。

 次は復帰した時の出勤時間に間に合うように会社近くまで行ってみましょう。
おそらく多くの人は通勤ラッシュ時に電車に乗ると思います。
人ごみも精神的ストレスを感じたり、立ちっぱなしになるため構造的ストレスも感じると思います。
あまりにも混んでいると、車両の中の酸素が薄くなることもあるかもしれません(背の低い方はありそうですね)。

 何度か試してみて、大丈夫そうなら、いよいよ復帰です!
職場復帰もいきなり一日ではなく、半日からにできるように会社に相談してみてはいかがでしょうか。
いきなりフルタイムで働くと、ストレスがあなたの適量を超える可能性があり、症状が悪化してしまいます。

 

 以上のように、少しずつ元の生活に近づいていくように工夫しましょう。
焦ってしまう気持ちはわかりますが、急がば回れと考えてください。

 

企業様へ

 うつ病や自律神経失調症の原因は、仕事関連というものが半数以上を占めているという統計が出ています。
この統計が本当だとすると、うつ病や自律神経失調症を治したり予防したりするには、会社の協力が必要になってきます。

 私は、人事や総務担当の方に講演をさせていただく機会がありますが、「うつ病や自律神経失調症に対する知識が不足していることが実感できた」というご意見を多くいただきます。

 社員がうつ病や自律神経失調症になることは、当人のためにもなりませんし、会社のためにもなりません。
現在多くの会社でうつ病、自律神経失調症等による労働力の低下が問題になっております。

 うつ病になると、注意力が低下することから仕事のミスが増えたり、作業効率が極端に落ちたりします。
また、うつ病がひどくなり欠勤や休職する社員がいると、その分、ほかの社員に負担がかかり、彼らまで過労からうつ病になる危険性があるのです。
すると部署全体・会社全体の労働力がさらに低下してしまいます。

 現在は、社員の健康管理は心の問題も含め、「安全配慮義務」「労働安全衛生法」などの法律が適用されます。
これは社員の健康を守る法的義務は企業側にあるということです。

 私はうつ病と2年以上かかわっていますが、ここ数年でうつ病への社会認識が大きく変化してきました。
現代、うつ病は個人の問題ではなく、職場の人間関係や仕事の内容など、環境の問題とされているのです。
うつ病にならないような労働環境を作るのは、事故を起こさないような労働環境を作るのと同じように重要視されるようになったのです。
社員がうつ病にならず元気に働けるよう、本書を参考にしていただけると幸いに思います。